2016年11月2日水曜日

Surface Studioの衝撃


Surface Studio (サーフェス スタジオと呼ぶか、サーフェス ステューディオと呼ぶかは、まだMSKK内で決まっていないとか...)、衝撃的なデビューでした。

日本マイクロソフトの最後の1年間、僕はOEM統括本部でWindowsデバイスのポートフォリオマネージメントを仕事の1つにしていました。

どういう内容の仕事かというと、フォームファクター、画面サイズ、スペック、価格でセグメントを分けて、どのセグメントがWindowsは強くて、どこを競合にやられているのか、どのセグメントに成長の可能性があるのか、どのセグメントを攻めていくべきかをアナリストのように徹底的に調べ上げて、レポートにまとめます。

Surface Studioは僕がまさに出てきて欲しかったデバイスなのです。でも、できればOEM (= Original Equipment Manufacture、要するにNECや富士通等のPCメーカー) からもっと早く出て欲しかったというのが本音ですが。

日本国内にあるPC (純粋なタブレットは含まないが、Surfaceのような2in1は含む) のWindowsシェアは、コンシューマーで87~88%、企業では95%ぐらい。特にエンタープライズと呼ばれる大企業内のWindows PCのシェアは99%ぐらいになります。俯瞰してみると日本はそれぐらいWindowsが強く、世界でも稀な国です。

そりゃ企業の情シス視点で見たら、デバイスは統一したいので仕方ないですが。

しかしこれをセグメントで分けると、いくつかのセグメントではAppleに負けています。たとえば画面サイズで11~13インチではMacがトップシェアです。また、AiO (All in One) と呼ばれる一体型のデスクトップPCの中でも、15~20万円台の価格帯においてはiMacのシェアがWindowsのAiOを上回っています。

前者に関しては、Surfaceシリーズが登場し、OEMもようやく薄型のノートや、Surfaceクローンの2in1のラインナップが揃い始め、反転攻勢の準備が整いました。

これが後者になると、たしかにOEMからもAiOはたくさん出ていますが、価格やスペックで対抗できる機種がほとんどないのが実情で、特にスペック面では27インチiMac Retina 5Kに価格性能比で比肩できる、そしてクリエーターを意識した製品が1つもなかったのです。

プロのクリエーターは無数に存在するわけではないので、クリエーター向けの製品はたくさん売れるわけではありません。しかしクリエーターはインフルエンサーであり、著名なインフルエンサーが使うことでブランディングに大きく貢献します。それこそひと昔前のナイキのエア ジョーダンを思い出してみてください。

国産メーカーのAiOは、ただデスクトップPCをモニター一体型にしたものがほとんどで、GPUもAMDやNVIDIAのディスクリートGPUが載っていなければ、メモリーも8GB~16GB、さらに液晶モニターも写真や映像編集に向いたスペックのものではありませんでした。逆にテレビチューナーのような情報消費のための機能がいつまでも載っています。

MS本社のSurfaceチームもこんな状況に辟易していたのではないでしょうか。

もっとも、Surfaceの存在意義の1つはApple対抗でありますので、MBAにSurface Pro、MBPにSurface Bookをぶつけることはもちろん、iMacに対しても何かいずれ当てるつもりであったのでしょう。

しかし発表されたSurface Studioは「iMacのシェアを奪うために作られたデバイス」という範疇に留まらない、とんでもないデバイスでした。

ご参考までにSurface Studioのスペックはこちらにあります。
https://www.microsoft.com/en-us/surface/devices/surface-studio/tech-specs

まだ日本のサイトには載っていませんので英語版です。日本での発売に関してはこれから発表されると思います。

これを見て、「なんだ、液晶が柔軟に動くデスクトップパソコンか」と思った人は首が相当凝っていますね。

ためしにGIZMODOのレビューを読んでみてください。

「Surface Studio」ハンズオンレビュー:試して分かるその価値
http://www.gizmodo.jp/2016/10/surface_studio.html

私に言わせれば、これは「デスクトップPCにもなる液タブ (液晶ペンタブレット)」であり、まったく新しいカテゴリーの製品です。

Surfaceが掲げていた基本コンセプトってなんでしたっけ? それは即ち、「紙を置き換える」こと。

だからSurface Proの初代からペン対応で、Surface Pro 3でA4の紙と同じくアスペクト比は横3:縦2になり、Surface Pro 4で筆圧も1,024段階になって書き心地も大幅に向上しました。

そのコンセプトはSurface Studioでも不変です。

「iMacの真似」とか「iMacを意識している」という人がいるのですが、それはやや信者として自意識過剰ではないでしょうか。

たしかにAiOの先駆けは1998年に登場したiMacです。Surface Studioも調査会社におけるカテゴリーはAiOになるはずなので、そういう意味で真似と言われればそうなのかもしれません。

ただ、Surface Studioの開発者たちは、iMacからシェアを奪うつもりで作っていても、そのものを真似ようとして作ってはいないと確信しています。

あえて意識しているといえば、むしろこちらのデバイスのではないでしょうか。


SONYのVAIO Tap 21です。

このデバイスが2013年に出たとき、MS本社もかなり注目していたことを覚えています。

そして、SurfaceのトップであるPanos Panay (パノス パネイ) のプレゼンテーションを観ると、Surface Studioの目指している方向性がわかります。英語ですが、わかる人は彼の話している内容をよく聞いてみましょう。


ちなみに、パノスは今私がもっとも注目しているMSのエグゼクティブで、私がプレゼンの師として勝手に崇拝している人でもあります。

彼は元々キーボードやマウスなどのMS純正ハードウェアを率いていたそうですが、今やMSのハードウェア開発すべてを統括していて、Xboxにも関わっています。

彼が実際どのぐらい関わったかわかりませんが、Xbox One Sもバランスの取れた素晴らしいハードウェアになっていますよね。

彼についてはこんな記事もあります。
「Microsoft Surfaceの父」プレゼンのジョブズっぽさが半端ねー件

偉い人ですが、とっても気さくでナイスガイだそうです。

話をSurface Studioに戻しますが、Surface Studioは「iMacを意識した」デバイスではなくて、「クリエーターを意識した」デバイスです。

クリエーター、とくにIllustratorやPhotoshopを扱うようなプロ・カジュアルクリエーターが、製作工程のすべてをこれ1台で賄えるように、そして彼等の生産性や創造力を高めるために開発されたデバイスです。

たとえば気づいたことをメモ書きする、ドラフトをラフスケッチする、デザインする、モデリングする、レンダリングする、動画に書き出す。それらすべてをこの大きなキャンバスでペンとタッチ、そして新しいSurface Dialで実現して、新しい創造のかたちを提案しようとしています。

決して安いデバイスではないし、万人向けのデバイスではありません。だからたくさん売れるデバイスではないのです。それでも北米では全モデルの年内出荷分が売り切れだそうですが...

とはいえ、冒頭の動画がたった24時間で (たぶんYouTube広告でまだ誘導していないはずです) 数百万回再生されているように、非常に注目されています。

最後に簡単にスペックについてまとめたいと思います。

まずCPUは第6世代のCore i5/i7。Hシリーズというモバイル用のクアッドコアCPUです。なんで第7世代のKaby Lakeじゃないの?と言う人が居ますが、まだインテルから第7世代のHシリーズは発表されていないんだから当然でしょう。

GPUはNVIDIAのGeForce GTX 980M/965Mです。こちらもなんでGTX 1080M/1060Mじゃないのと思う人が居るかもしれませんが、これは単に設計を開始したときにまだGTX 1000Mシリーズがなかったからだと思います。私が思うに、Surface Studioは相当前から開発が始まっていたはずです。

ちなみに、GTX 980MならばフルHDでもFFXIVは快適に動くと思いますが、965Mだと60fpsをキープするのは難しそうです。とはいえ、いずれマイナーチェンジでGTX 1000Mシリーズに置き換わると思います。

さて、Surface Studioを見て、OEM、特に大手OEMの方々はどう思ったでしょう。

僕個人の意見としては、ぜひデータを消費するためのAiOではなくて、物を創り出すためのAiOを、本気で創造活動に従事している人たちのストレスを限りなく低減して、まったく新しいものを創り出すためのAiOをもっと出して欲しいと思っています。

PCは消費も創造も両方できるデバイスですが、前者は今やスマホにとってかわられているわけで、そこばかりを追求するデバイスばかりを出していても何も変わりはしません。ゲーミングPCは少し事情が異なりますが。

ぜひVAIOやマウスコンピューターといった国産メーカーで尖ったデバイスを出すOEMには頑張ってもらいたいです。

最後の最後ですが、Surface BookやSurface Pro 4の後継機種 (Surface Book 2? Surface Pro 5?) は何か尖ったことをやってくるような気がしてなりません。おそらく年内の発表はなく、来年のしかるべきタイミングだとは思いますが、きっとただの正常進化に留まらない何かがあると確信しています (ただの妄想ですが、最近読みがよく当たるので...)。

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